大阪高等裁判所 平成2年(ネ)2327号 判決 1992年10月29日
控訴人 国
代理人 田中素子 丸山純生 ほか四名
被控訴人 中川嘉弘
主文
原判決中控訴人に関する部分を取り消す。
被控訴人の控訴人に対する請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一申立て
一 控訴人
主文と同旨
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
ただし、請求の趣旨を次のとおり訂正する。
控訴人と被控訴人との間において、本判決添付図面記載のK11、K12、K13、K14、K15、K16、K17、K18、K19、K11の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「本件水路」という。)が被控訴人の所有であることを確認する。
第二主張
一 被控訴人
1 本件水路は元国有水路の一部であつたが、昭和三八年ころ井田博二が付近一帯の農地を宅地等に造成した際、右国有水路のうち、本件水路を含む約二〇〇メートルの区間を埋め立て、右水路を付け替えた。
2 内海順治は、昭和四四年一〇月一日、尾崎猛から登記簿上姫路市網干区興浜字中ノ島一一七六番二宅地八五・九五平方メートルの土地(以下「甲地」という。)を買い受け、同日以降右甲地の全部又は一部である本判決添付図面K1、K2、K11、K12、K13、K14、K15、K1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下「A地」という。)とともに本件水路を所有の意思をもつて占有してきた。
3 被控訴人は、昭和四六年八月二五日右内海順治から右甲地を買い受け、同人から右占有を承継し、以後所有の意思をもつて本件水路の占有を継続している。
4 したがつて、被控訴人は右内海が占有を開始した時から一〇年を経過した昭和五四年一〇月一日ないし同二〇年を経過した平成元年一〇月一日に本件水路を時効取得した。被控訴人は本訴において右時効を援用する。
5 しかるに、控訴人は被控訴人の右時効取得を争う。
6 よつて、被控訴人は控訴人との間で本件水路が被控訴人の所有であることの確認を求める。
二 控訴人
(被控訴人の主張に対する認否)
1 被控訴人の主張1の事実は認める。
2 被控訴人の主張2、3の事実は不知。
3 被控訴人の主張4は争う。
4 被控訴人の主張5の事実は認める。
(控訴人の主張)
1 本来国有水路は公共用財産として公衆の利用に供されるものであり、その付替えには国有水路の管理者である県知事の承認を必要とし、付替えによつて事実上機能しなくなつた旧水路の所有権を取得するには、新設の水路を国に帰属せしめるとともに、県知事が旧水路の用途廃止を行つて普通財産とした後、大蔵大臣から譲与を受けることが必要であるところ、井田博二が右水路の付替えを行つた際、右国有財産法上の手続を一切経なかつた。
2 ところでこのような公用廃止のなされていない公共用財産について黙示の公用廃止が認められるためには、それが(1) 長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、(2) 公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、(3) その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されることなく、(4) もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつたという四要件が充たされる必要があり、そして右四要件は遅くとも取得時効の起算点である自主占有開始の前に存在しなければならない。
しかしながら、本件において被控訴人が主張する昭和四四年一〇月一日時点において、前記四要件に適合する客観的状況が存在していたといえないことは明らかであるから、被控訴人が本件水路を時効取得する余地はないというべきである。
3 仮に被控訴人が主張するように、本件水路について時効取得の余地がありうるとしても、
(一) 内海順治は本件水路を占有するに当たり、井田博二が無断で埋め立てたことを認識していたか、又は少なくとも認識しなかつたことにつき過失が認められるというべきであり、また被控訴人も水路の存在を知つていたにもかかわらず、漫然と甲地を購入したのであるから、被控訴人の占有にも過失があつたというべきである。したがつて、被控訴人主張の一〇年の取得時効を認めることはできない。
(二) 被控訴人は二〇年の取得時効を主張するが、遅くとも本件訴訟において控訴人が自己に所有権があることを主張して請求棄却の判決を求める旨の答弁書を陳述した平成元年二月一〇日には時効は中断されているから、被控訴人の右主張も理由がない。
第三証拠関係<略>
理由
一 本件水路が元国有水路の一部であつたこと、昭和三八年ころ井田博二が付近一帯の農地を宅地等に造成した際、右国有水路のうち本件水路を含む約二〇〇メートルの区間を埋め立て、右水路を付け替えたことはいずれも当事者間に争いがない。
二 被控訴人は、本件水路を時効取得したと主張するので、判断する。
1 右争いのない事実に、<証拠略>によれば、次の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。
(一) 姫路市網干区興浜の字中ノ島と字上鱸場との字界には、控訴人が所有し、兵庫県知事が管理する公共用財産である水路が農道に沿つて存在し、農業用水路としてその機能を果たしていたが、昭和三八年ころ、井田博二が右水路付近一帯の農地を宅地等に造成した際、同人は右国有水路のうち、本件水路を含む約二〇〇メートルの区間を埋め立て、東側の字上鱸場側に幅員約四メートルの新道路及び新水路を設置した。
(二) 井田博二は、右水路の付替えに当たり、新水路の位置等につき地元の自治会長や農業委員らに相談するとともに、これが設置される土地の所有者ら関係者に新道路及び新水路の設置につき了承を得たが、右水路の管理者である兵庫県知事の承認を得なかつた。
(三) 井田博二が設置した新水路はその北側及び南側部分において、従前より存している国有水路と連続し、旧水路と同様に農業用水の流路としての機能を果たしている。
(四) 甲地は元地目が田であつたが、昭和四〇年八月二四日に尾崎猛が買い受け、同年一一月一五日宅地に地目変更し、同人は同四四年一〇月一日内海順治に売却し、さらに同人は同四六年八月二五日被控訴人に売却し、以後被控訴人が甲地を所有している。
(五) 被控訴人は右買受けに当たり、甲地は登記簿上地積が二六坪であるにもかかわらず、本件水路及び本判決添付図面K16、K17、K18、K19、K4、K5、K6、K7、K8、K16の各点を順次結んだ部分の土地(以下「B地」という。)をも含むものとして実測四六・四四坪である旨説明を受けた。そして以後A地、本件水路及びB地を畑として占有している。
(六) 本件水路は前記埋立てによりA地と地続きの平坦な土地となつており、昭和六三年七月一八日になされた検証当時本件水路が水路であつたことを示す痕跡は外形上存在していなかつた。
2 公共用財産が長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され、公共用財産としての形態、機能を全く喪失し、その物のうえに他人の平穏かつ公然の占有が継続したが、そのため実際上公の目的が害されるようなこともなく、もはやその物を公共用財産として維持すべき理由がなくなつた場合には、右公共用財産については、黙示的に公用が廃止されたものとして、これについて取得時効の成立を妨げないものというべきである(最高裁第二小法廷昭和五一年一二月二四日判決、民集三〇巻一一号一一〇四頁)ところ、右黙示の公用廃止が認められる要件に適合する客観的状況は遅くとも取得時効の起算点である自主占有開始の前に存在しなければならないものというべきである。
3 そこで本件についてみるに、前記認定のとおり井田博二が本件水路を含む付近の水路を埋め立てたのは昭和三八年であり、当時本件水路を含む旧水路は農業用水路として現に機能を果たしていたこと、右井田は水路の管理者である兵庫県知事の承認を得ないままに無断で右埋立てを行つたものであることなどに照らせば、右埋立てから約六年を経過した昭和四四年一〇月一日当時(被控訴人主張の取得時効の起算点、以下「基準時」という。)、本件水路が「長年の間事実上公の目的に供されることなく放置され」ていたとみることは極めて困難である。
さらに基準時当時本件水路が埋立てにより、水路としての機能、形態を失つたが、それにより公の目的に特段の支障がなかつたとしても、それは前記認定のとおり井田博二が設置した新水路がその北側及び南側部分において既設の国有水路と連続してその機能を果たしているからにすぎないのであつて、このような場合には右埋め立てられた旧水路部分のみをとらえて「公共用財産として維持すべき理由がなくなつた」ということは相当でない。
その上、公の目的に支障が生じなかつたとしても、それは前記認定のとおり第三者の所有地に事実上新水路が設置され、公共用財産に代わるものとして利用された結果にすぎず、基準時当時新水路の敷地の所有権者において、水路としての利用につき異議が述べられた場合には、本件水路を含む新水路を回復する必要性が現実化することになるのであり、右観点からも本件水路について基準時当時「公共用財産として維持すべき理由がなくなつた」とみることはできないというべきである。
したがつて、被控訴人が主張する基準時当時本件水路について黙示の公用廃止がなされたものとみるべき客観的状況はなかつたというほかない。
たしかに、<証拠略>によれば、旧水路部分中本件水路の南側においてその上に住宅等が建築されたこと、現在に至るまで新水路が設置された土地の所有者から新水路の利用につき異議の出されたことはないこと、昭和五四年ころ姫路市が地元住民の要請を受けて新水路の改良工事を行つたことなどの事実がうかがえるが、これら基準時以後の事情が仮にあるとしても、右事情は前記判断を覆すものでないことは明らかである。
4 以上のとおり、被控訴人の取得時効の主張は本件水路が取得時効の対象となる土地であるとの立証がないから、その余の点を判断するまでもなく失当というほかない。
三 以上の次第で、被控訴人の控訴人に対する本訴請求はその余の点を判断するまでもなく、理由がないから棄却すべきところ、これを認容した原判決は失当で本件控訴は理由があるから、原判決中控訴人に関する部分を取り消し、被控訴人の控訴人に対する本訴請求を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 柳澤千昭 東孝行 竹中邦夫)
別紙図面 <略>
【参考】第一審(神戸地裁姫路支 昭和六〇年(ワ)第五八〇号・昭和六三年(ワ)第五一七号 平成二年一〇月二六日判決)
主文
一 被告国と原告との間において、別紙図面(一)のK11、K12、K13、K14、K15、K16、K17、K18、K19、K11の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地が原告の所有であることを確認する。
二 被告松本と原告との間において、別紙図面(一)のK16、K17、K18、K19、K4、K5、K6、K7、K8、K16の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地が原告の所有であることを確認する。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告国に対する請求は主文第一項と同旨である。
二 被告松本に対する請求は主文第二項と同旨である。
第二事案の概要
一 関係当事者間に争いのない事実等
1 姫路市網干区興浜の字中ノ島と字上鱸場との字界には、別紙図面(二)記載の青線の位置に、被告国が所有し兵庫県知事が管理する公共用財産たる国有水路が農道に沿つて存在していたところ、昭和三八年頃井田博二は、右国有水路付近一帯の農地を宅地等に造成した際、同図面のPからQまで約二〇〇メートルにわたる区間内の右国有水路(以下旧水路という)等を埋め立てるとともに、別紙図面(三)記載のPからQまでの区間の青線の位置に、旧水路の位置と異なる私設水路(以下新水路という)を設置したが、その施工に必要な法令上の手続はもとより旧水路所有権の私人に対する譲与に必要な法令上の手続も一切履践しなかつた。
なお、井田博二はその際、別紙図面(三)記載のとおり新水路に沿つて認定外道路たる私道(以下新道路という)を設置したが、新水路の一部は新道路の地下にヒューム管を埋設して作られていたところ、その継目からの漏水により路面が沈下し自動車の通行が不能になつたため、地元住民等の要請により姫路市は昭和五五年一二月から翌五六年三月にかけて新水路の改良工事を実施した。
2 別紙図面(一)のK1、K2、K11、K12、K13、K14、K15、K1の各点を順次直線で結んだ範囲内の土地(以下A地という)は、登記簿上姫路市網干区興浜中ノ島一一七六番二宅地八五・九五平方メートル(二六坪)の土地(以下甲地という)の一部又は全部であるが、主文第一項掲記の土地(以下本件水路という)は、公共用財産たる旧水路の一部であり、主文第二項掲記の土地(以下B地という)は、登記簿上姫路市網干区興浜字上鱸場一四三六番五畑一六七平方メートルの土地(以下乙地という)の一部である(この事実は、いずれも<証拠略>によつて認められる)。
なお、A地・本件水路・B地周辺の現況及び距離関係は別紙図面(一)記載のとおり(その基点の説明及び各地点との距離関係は別紙基点説明書記載のとおり)である。
3 本件水路は昭和三八年頃から現在に至るまで、水路として公の目的に供用されたことのない、A地及びB地と地続きの平坦な土地であり、公共用財産たる水路としての形態・機能を全く喪失している。
4 昭和四四年一〇月一日尾崎猛から甲地を買受けた内海順治は、同日以降A地とともに本件水路及びB地(以下これらをA地と併せて原告占有地という)の占有を継続していたところ、昭和四六年八月二五日内海順治から甲地を買受けた原告は、その頃内海順治から右占有を承継し、昭和六二年一一月以降も原告占有地を占有している(この事実は、<証拠略>によつて認められ、<証拠略>中右認定に反する部分はにわかに借信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はないところ、本件水路及びB地の占有につき外形的客観的にみて内海順治ないし原告が他人の所有権を排斥して占有する意思を有していなかつたものと解される事情の主張立証はない)。
5 原告は、平成元年一〇月一日の経過をもつて本件水路及びB地につき占有期間二〇年の時効が完成したと主張し、本訴において右時効を援用したが、被告国は、公共用財産たる本件水路は、被告国の所有であると主張し、また、被告松本も、昭和六〇年一〇月二九日乙地につき同月二八日売買を原因とする所有権移転登記を経由し、乙地の一部たるB地は被告松本の所有であると主張して、いずれも原告の所有を争つている。
二 本件の主たる争点
1 本件水路につき黙示的な公用廃止の有無(原告は「昭和四四年一〇月一日当時から既に本件水路については黙示的に公用が廃止されていた」と主張するのに対し、被告国は「新水路が設置されている私有地の所有者が新水路の利用に異議を唱えれば、全体として機能を果たしている水路が一部で分断されることになり、たちまち公の目的に支障のある状態が顕在化し、本件水路を原状に回復して全体としての水路の機能を維持する必要が現実化するのであるから、本件水路については黙示的に公用が廃止されたとみるべき場合に該らない」と主張する)。
2 B地につき時効中断の成否(被告松本は「昭和六〇年一〇月中旬頃被告が乙地の地目変更許可を申請した際、乗鞍良治を介してB地上の雑草を苅り、右申請手続に基づく看板をB地上に立てたのであるから、これにより原告はB地の占有を奪われ、時効は中断した」と主張するのに対し、原告は「右看板の立てられていた期間は僅か数日間であり、これを知つた原告は直ちにB地を含む原告占有地の周りに新たな柵をめぐらせたのであるから、原告はB地の占有を奪われていない」と主張する)。
第三争点に対する判断
一 主たる争点1について
1 前記事案の概要一の1ないし4の事実のほか、<証拠略>によれば、(一)昭和三八年頃本件水路を含む旧水路付近一帯の農地を宅地等に造成した井田博二は、その際、新道路及び新水路の位置等につき地元の自治会長や農業委員らと相談するとともに、これが設置される土地の所有者ら関係者に新道路及び新水路の設置につき同意を得たうえ、幅員一・五メートル位の農道及びこれに沿つて流れていた旧水路に替えて、幅員約四メートル内外の新道路及びその地下ないし側溝を流れる新水路を設置したが、新水路(新道路)は本件水路付近ほか一か所を除けば概ね旧水路(農道)に沿つて設置されていたこと、(二)その後、国有水路に連続している新水路は、国有水路と一体となつて、旧水路と同様に農業用水の流路としての機能を果たし、現在に至るまで農業用水路として流域の農地の耕作等のため利用されており、また新道路も開通後直ちに付近住民その他の人や車両等の通行の用に供されて、公道に通じる道路となり、現在に至るまで幅員約四メートルの舗装道路として公道と変わらない機能を果たしていること、他方、(三)新道路の開通後間もなく新道路に沿つて建物が立ち並ぶようになり、右造成によつて埋め立てられた旧水路も、特に本件水路以南のかなりの部分が、その上に建築された住宅や店舗等の敷地になつているところ、原告らが長年月にわたり平穏かつ公然と占有を継続してきた本件水路上には現在建物その他の工作物はないにしても、その北側の旧水路は新道路の地下に連なり、そのすぐ南側の旧水路は建物の敷地に連なつている状態のまま現在に至つていること、しかも、(四)右造成後現在に至るまでの間、新水路(新道路)が設置された土地の所有者から新道路及び新水路の利用につき異議の出されたことは一度もなく、かえつて、新水路の一部からの漏水により新道路の通行が不能になつた際には、右所有者を含む地元住民らは姫路市に対し新水路(新道路)の改良工事を要請し、姫路市もその要請に応えて昭和五五年一二月から翌五六年三月にかけて新水路(新道路)の改良工事を実施したことが認められ、この認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、昭和三八年頃新道路(新水路)の開設とともに本件水路を含む旧水路が公共用財産たる水路としての形態・機能を全く喪失して以来三〇年近く経とうとする現在、住居や店舗の敷地又は新道路の敷地として利用されている旧水路全体を原状に回復することはもとより、原告らが長年月にわたり平穏かつ公然と占有を継続してきた本件水路のみを原状に回復することも極めて困難であり、他方、現在に至るまで事実上旧水路に代わる水路としての機能を果たしている新水路につき、これが設置されている土地の所有者等が万一その利用を妨害しようとしたとしても、そのような妨害はもはや権利の濫用として許されない状況が続いているのであつて、本件水路を公共用財産として維持すべき理由も既になくなつていたものと認めるのが相当であり、かかる事実関係のもとにある本件水路については、昭和四四年一〇月一日当時既に黙示的に公用が廃止されていたものというべきである。
二 主たる争点2について
1 <証拠略>によれば、(一)原告は甲地買受後、地続きで平坦な原告占有地を平穏かつ公然と占有してきたものであり、昭和六〇年一〇月当時、原告占有地には南北の畝が作られ野菜等が栽培されており、その現況は占有範囲の明確な一枚の畑であつたが、新道路との境界にあたる部分にのみ木杭を立てて網を張つてあつただけであつたため、原告占有地内に入ろうと思えば誰でも自由に入れたこと、(二)乙地(地目畑)はもと川上重一の所有(昭和四九年五月川上のゑ子相続)であるところ、乙地につき昭和四三年一〇月石見ヒサコが売買予約を原因とする所有権移転請求権仮登記を経由したのち、昭和五二年一月に被告松本が右所有権移転請求権移転の付記登記を経由したが、被告松本が昭和六〇年一〇月二九日乙地の所有権移転登記を経由するに先立ち、被告松本の依頼を受けた乗鞍良治は同月一七日頃、原告占有地の中央あたりに「転用目的住宅兼倉庫用地・申請地乙地・所有者川上のゑ子・申請者被告松本」などの記載がある縦四〇センチメートル内外・横六〇センチメートル内外の標識板を打ちつけた高さ一メートル強の木柱一本を立てるとともに、そのあたりに生えていた草を苅つたことがあること、(三)原告占有地内に右の如き標識柱が立てられたことを直後に知つて驚いた原告は、間もなく原告占有地の周りに太い木杭を打ち直して網を張りめぐらせて他人が侵入できないようにし、右標識柱も極く短期間で撤去されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 右認定事実によれば、事実上誰でも自由に出入りできる現況畑の原告占有地の中央あたりに、容易に撤去できる右の如き標識柱が一本、短期間立てられていたというだけであり、かかる事実をもつて、原告がB地の占有を他人に奪われたとみることはできない。
第四結論
そうすると、原告が本件水路及びB地を時効取得するのに妨げはないものというべく、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも理由があるから認容し、主文のとおり判決する。
(裁判官 松永眞明)
基点説明書<略>
図面(二)及び(三)<略>
図面(一) 姫路市網干区興浜字中ノ島1176番2、・同所字上[魚戸]場1436番5付近<省略>